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ナイロビ沼の女主の話 (お葬式編)
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(お葬式) 続き


【『金も出すけど口もだす』とわめいた私の場合】 

義理の父は、ナイロビ出稼ぎ労働者でしたが、自分の健康に自信が持 てなくなると義理の母が住んでいる田舎に戻り自宅で亡くなりました。

バナナの葉の上に安置された義理の父の体には日本と同じように顔 に白い布が被され、胸元にはさみが置かれていた。顔をみるためにお おっていた布をとると、うううう。これでいいのか〜〜。つばを飲み込ん でしまった。

よどんだ瞳がこっちを向いている。まぶたが閉じられていないためにど うも見開いた目が何か訴えているようで耐えられない。義理の父は目を 開いて死んだのか、それとも死後の世界でも先が見えるようにあえてそ うしているのか。

私は、ケニアの殺人で一番むごい殺し方は、特に男性の場合は、死 後の世界でも先が見えないように目をえぐり、男としての威厳を剥奪す るために性器を切り取ると聞いている。

1990年にオウコ外相が暗殺された時はまさにその姿であった。末裔の 親族が単独で目を閉じるわけにもいかず、密かに「これって風習か。目 を閉じてもいいか」と聞いても誰も答えない。もしかしたら誰もどうして良 いのかわからないのかも知れないと思った。いいかげんな家系のようだ 。

我が家は泊まる所もない貧しい土田舎で一週間もお付き合いできない ので、隣近所からのハランべー*はいらないから翌々日までには埋葬 式をやりたいと提案。隣近所といっても大半は親戚なので、お金を出さ ないですむならそれにこした事はないとばかりにさあ準備にとりかかろ うとした所で義理の父の兄さんが杖をつきながら登場。

男尊女卑の典型的な会議が男だけで始められた。女はただ土べたに 横になったりして待つばかり。時々、主人が伝令を持ってくる。

「マーケット(約4km離れた場所)に死亡の張り紙をして4,5日後位に 埋葬するといっている。誰それがまだ来ていない。身内だけの葬式で は家系の恥だ。ここの出身者にはできるだけたくさん出席してもらえと 言っている」「死体をそれまでここにおいて置くのか」「腹ふくらんできた よなー」「とにかくあさってじゃなきゃだめだと言ってくれ。埋葬許可は どうにでもなるだろう。死んだ人のことを考えたらそれ以上は延ばせな いって」

「おれは、あの会議の中で一番若いから言いづらい」「葬式費用はうち が出すんだからうちの意見を少しくらいは入れてくれるだろう。」「もう一 度話してみる」男だけの円陣はなかなか崩れない。「何も決まらない。 炊き出し用の材料を義理の姉と買ってきてくれるか。おれはとりあえず 棺を買ってくる」「わかった。そろえるべきものは棺おけだろうが何だろ うが全部先に揃えた方がいい」

町から戻って夕日は傾いても円陣は崩れていない。こんな時に酒飲む か。いいかげんにしてよ。義理の母は私の顔を見ればこれ見よがしに 泣くだけだし。苦し紛れと時間稼ぎのために「どこに埋葬したいの」「本 当はあっちがいいがすでに他の人が埋葬されているし」「よく覚えてい るね。じゃここしかないね」

義理の兄に「母さんがここに埋めたいと言っているから、ここに埋葬しよ う」「わかった。長老に聞いてくる」返事がない。返事がない!。そんな 事ぐらい即断できるだろう。うちの土地なのだからと私の苛立ちは上り 詰めるだけであった。

「私があの会議に入ってもいいか」「構わない、言ってくれ」長老に「1日 でも早く埋葬しなければ、死体が腐ってしまう。私たちの意見が通らね ば、埋葬式にも出席しないでこの場で引き上げる。葬儀に必要なもの は揃ったから、後はあなたに任せる。でも、その後の費用は一切出さ ない」

英語からキクユ語に通訳していた義理の兄は困惑顔で通訳する。私の 最後の言葉は、「何も決められない会議なんかすぐ解散してくれ。あん たも家にすぐ帰れ」いささかこの言葉は目上の人には無礼な発言であ ったのか通訳されなかった。長老は何も言わなかった。外国の女はす げーなと思ったに違いない。そして、なぜか女性群からは拍手を頂い てしまった。

すったもんだの末、埋葬式は2日後、土着宗教だと思うのだが神父さ んが神に祈りをささげ1日がかりで終了した。キクユ語だけの葬儀だっ たのでな〜んにも解らない私は時間が停まったのではないかと思える くらい長い一日であった。

* ハランべー:
『どっこらしょ。えんやこらしょ』という意味でしょうか。何かのために寄付 金を集めるときにハランべーをしようという言葉を使います。この言葉 は、ケニア国初代大統領ケニヤッタが全国民力を合わせて国造りをと いう意味合いで使ったのが初めとされており、演説の最後は必ず「ハラ ンべー」で締めくくられました。

今宵の一口コラム

‐チャイといえども‐
ケニアでは、ミルクティーの事をチャイといいます。まったりとした甘さ がきつすぎるこのチャイは、ケニア人の朝食です。

そして、もう一つのチャイ。これは、賄賂の俗語です。例えば、交通課 の警察官に捕まってしまった時などは、「お昼どう」といっていくらかの お金を渡して見逃してもらいます。

そして、「チャイとられちゃったよ」となります。このチャイを上手に使う のが世渡り出世術の一つでもあるのです。でも、これは違法であり、国 際通貨基金などが鋭くその排除を求めています。賄賂ととるか謝礼とと るかそれはその人の判断でしかないように思えるのですが。